東京高等裁判所 昭和39年(ネ)293号 判決
(賃借権の時効取得について)控訴人は、本件土地に対する賃借権を時効によつて取得したと主張するところ、不動産賃貸借契約における賃借人の賃貸人に対し賃借不動産の使用収益を請求する権利、いわゆる不動産賃借権は、動産の賃借権と同じく賃貸借契約から生ずる純粋の債権として民法では構成されてはいるが、不動産の利用関係ことに不動産の利用に対する資本の投下が、長期間争われることなく継続して行われる場合には、法律上の賃貸借として、借地法若しくは借家法の保護のもとにおくことは今日有意義なことであり、また、この権利が契約上の地位にとどまらず財産的な価値がある権利とみることもでき、したがつて、「所有権以外ノ財産権」(民法第百六十三条)として取得時効の対象となる権利と解するけれども、前示(2)で認定したように、控訴人が昭和二十二年六月十二日被控訴人先代から別紙図面表示の(ハ)及び(ニ)の土地を賃借するにあたり、本件土地の賃借権の譲渡の承諾を受けたことはなかつたものであるから、これが占有の始めに善意無過失ということができず、したがつてそのときより本訴提起の日である昭和三十七年八月二十日までには二十年の時効期間を経過していない。そればかりでなく、ほんらい賃借権の時効取得が成立するためには、賃借権行使の意思を以て賃借物を所定期間占有することを要し、もし権原の性質上占有者に賃借権行使の意思がないものとすべき場合には占有者は、たとえ内心の意思においては賃借権行使のための占有をしている場合であつても、相手方に対し賃借権行使の意思があることを表示し又は新権原により更に賃借の意思を以て占有を始めるのでなければ賃借権の時効取得のための占有があるとはいえないところ、前示乙第十七、十八号証によれば被控訴人先代は昭和二十七年八月三十一日までは本件土地の賃料を借地人関根ヨシの分と表示して受領し控訴人に対する賃貸を拒否していたものと認められ、控訴人において当時これに対し反対の意思を表示したことは認め難いのであるから、本件土地のうち前記臨時処理法の適用のない部分(別紙図面赤斜線部分)については、控訴人の占有使用は、被控訴人の先代に対する関係においては、権原の性質上控訴人自身の賃借権行使の意思にはよらないものというべく、その後の新権原による占有開始は控訴人の主張しないところであり、控訴人においてこの土地部分についても賃借権行使の意思あることを被控訴人に対し表示したことは、昭和二十七年十二月三十一日の相殺通知の時(成立に争のない乙第二十四号証の一、二参照)より前の時期においては認め難く、同日より本訴提起の日である昭和三十七年八月二十日までは十年の取得時効期間を経過していないのであつて、以上いずれの観点から見ても、控訴人の賃借権時効取得の抗弁は採用することができない。
(小沢 岡田 館)
〔別紙図面〕<省略>